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第3章【革クリーニング】色直し・傷直し方法、 質感変化などの解説

色や傷は革の種類と表面仕上げ方法により修復方法が変わります。


おしゃれ工房You友(ゆうゆう) 大友眞吾です。

この章では染色に使う材料や方法の違いによるあれこれを解説していきます。



革メンテナンスクリーニング方法、革の水洗い~汗取り・臭い取り・カビ取り方法については
下記リンクよりご覧ください。

【革クリーニング】メンテナンスクリーニング方法はここをクリック

【革クリーニング】革の水洗い~汗取り・臭い取り・カビ取りはここをクリック

 

◆顔料と染料の違い

顔料とは水にも油にも可溶しない色の粒で、そのままではくっつける事が出来ないので
バインダー(接着剤)と混ぜて革の表面に色をくっつけていきます。

染料は顔料と違い、水や溶剤に溶け込み革に浸透します。

では実際に白い紙にエアーブラシで吹き付けた時にほぼ同じ色になる顔料と染料をご覧ください。


白いお皿に入れた状態では違う色に見える顔料と染料ですが、白い紙にエアーブラシで吹き付けると
ほぼ同じ色に見えます。

中に入れてある10円玉の見え方の違い、透明感の違いが色を直す時にとても重要になります。

◇顔料(塗料)での色直し~特徴と注意点

顔料とは色のついた粒子のことで、これに接着剤を入れると塗料になります。
色のついた粒子を接着剤で貼り付けて色づけているのが塗料です。絵具もペンキも革用顔料も塗料です。

化粧品にも顔料が入っています。ファンデーションでシミを隠したりできるし白くもできます。
顔に塗ることから顔料と呼ばれるようになったといわれています。

化粧と同じように色の粒子を敷き詰めるようにして貼り付けて色づけているのが顔料染め皮革(ピグメントレザー)です。


革の表情が見えない(隠れる)塗装がされているため、落とせないシミや汚れがあっても同じ色を作りお化粧のようにして消していくことができます。

色あせや色剥げが出てしまってもきれいに直せるのが一番のメリットです。

そのほか、傷などがあれば車の傷修理の時と同じように傷を埋め直していくこともできるので、革の傷みが出ていても補修し目立たなくするように直すこともできます。

そんなメリットがある塗装ですが濃くすればするほど質感が変化してしまいます。
色直しで依頼したら「ペンキを塗ったような質感になってしまった」という方からの相談もたくさんお受けしています。

原因はどこにあるのでしょう?



左が塗装されていない状態、右に行くにつれ塗料を濃く入れた画像です。
質感の変化がよくわかると思います。

白い革に薄く塗装すると隙間の白と塗装した色が入り混じって見え明るい色に見えます。
近くでよく見ると白い糸と黒い糸で織られている生地を少し離れてみると、混色されグレー色に見える感じですね。

塗り重ねていき、隙間が顔料で埋め尽くされると顔料の色そのものの色に変わります。

色の粒子の大きさに関係してくるのですが、小さい粒子なら下の色が透けて見えやすいため明るい色に、
大きい粒子だと下地が隠れやすくなるため下の色が透け難くなるため下地の影響を受けにくくなります。

2倍程度濃く色を入れると下地の白い色が塗料で覆われ隠れるため、下地の白い色の影響が少なくなります。。

これは単純に顔料の層が厚くなり下地の白い色が隠れていったからです。
この段階になると作った色に近い色合いで塗装することができますが、今度は色ではなく質感に注目。

4倍程度濃く入れると白い色は完全に隠れ作った色そのままの色になります。

白い紙の上に砂利を山積みにしたのと同じ状態ですので、質感をよく見ると型押し(凹凸)も埋まり浅くなっているのがわかります。

更にこの段階まで行くと樹脂のテカリも出てきてペンキを塗ったような感じになってきます。

シミや汚れを落とさず塗料を塗って隠ぺいしようとすれば塗装は厚くなりこうした変化が出てきます。
これがペンキを塗ったような質感になる原因です。


もう一つ重要なのが樹脂(接着剤)の種類。

乾いた時に厚くなる樹脂と薄くなる樹脂があります。

厚くなれば隠ぺい率は上がり、薄くなれば下がりますので、これも顔料の粒子の大きさと組み合わせる事でいろんな性質の塗料を作ることができます。

一つとして同じ状態のものはないので、ゆうゆうはその都度塗料を作っていきます。


特徴とメリット、デメリットを理解して質感に変化を出さない事が大切です。

◇染料での色直し~特徴と注意点

「塗料」が革の表面に色を張り付けているのに対し、「染料」は革自体に浸透して染まり透明感があるので革の表情が綺麗に残る染色方法になります。

塗料なら隠すことが出来るシミや汚れでも、染料では隠せない事がわかって頂けるかと思います。

染料は水や溶剤に完全に可溶する(溶ける)ので、いろんな色を入れるとそれぞれが混ざり別の色になります。

色を重ねていっても塗料のように作った色そのものにはならないのが染料です。
色を重ねるごとに色が濃くなっていくのですが、これは透明感が落ち色が暗くなるためにおこる現象です。

色のついたセロファンを重ねていくとどんどん暗くなっていくのと同じです、明るさ(明度)が落ちていきます。

染料は重なった部分の色だけが暗くなっていくため色ムラが出やすい染色方法になります。

シミが隠蔽出来ない、色ムラになり綺麗に直せないという染料の特徴を理解していないと、塗料を塗り重ね、まるで違う質感に変えてしまったりすることになってしまいます。

染料で染められた皮革製品は状態によってはある程度質感変化が出ることを覚悟しないと修復できないこともあります。

この辺りは依頼するお店でよく説明を聞いてから依頼しないと、元へ戻すことも出来なくなるので注意が必要です。

◆染色方法の違い

色を入れる方法も組み合わせ次第で無限大にあります。

基本的な3つの方法 ①塗る ②塗り込む ③重ねる を順番に紹介します。

◇乗せる(塗る)

一番手軽で革の色直しをするお店ならまずはこの「乗せる(塗る)」から始めていると思います。

筆やハケを使って革の表面に色を乗せるようにして色づけていきます。
袖口や色の違う革の縫い合わせ近辺など、細かな部分の塗り残しなどの修正は筆塗りをしていきます。

筆の圧力だけで塗っていくため固着力はそこそこありますが、ささくれたような痛みのある革だとささくれの根元までなかなか入っていかない塗装方法です。

◇塗り込む

塗料を塗りこむようにして塗装していきます。
上に乗せるだけに比べ、塗り込むようにして塗装すると固着力も強くなり、傷などがある場合、傷の中に押し込むようにして塗料を入れることができます。

革そのものにも入れ込むことができるので一番強く固着できる塗装方法になります。

固着力が特にほしい箇所には下地を作り塗り込むことで簡単には剥がれてこない塗装をすることができます。

ゆうゆうの場合だと、塗装の基本は塗り込み、細かな修正箇所を筆塗りで修復していきます。

◇重ねる~エアーブラシ塗装

細かな霧状にした塗料を吹き付けて塗装していく方法です。
エアーブラシは使い方次第で方法は無限にあります。

一番の特徴はごく少量の塗料を広範囲に使えること。
ほんの少し色を補色しようと思った場合、画像のバックで約5cc(ペットボトルのキャップ8分目程度)の塗料で全体に吹き付け補色することができます。

5cc程度では筆塗りだと筆に2~3回につけるだけで無くなるし、塗り込みに使う綿生地やスポンジだとほとんど塗ることができない量です。

エアーブラシを使えば風合いや質感を変えることなく塗料を使うことができ、重ねることで塗装膜を厚くしたりもできます。

ラッカー系の塗料と組み合わせれば、水性塗料の鏡面に溶け込むようにして塗料が入り込むため透明感が出たり、とても薄く顔料を入れる事が出来るため、下地の色と混色して深い味わいのある色に仕上げたりすることもできます。

筆塗り、塗り込み、エアーブラシの3つを組み合わせることでいろんな状態に対応できるようになります。

◆特殊事例紹介

◇ヌメ革の修復

ルイ・ヴィトンのモノグラム。
角部分やショルダー部分にはヌメ革が使われています

ヌメ革はタンニン鞣し(なめし)された革で画像のような色ですが染色はされていない皮革です。
発色するようになめし入れをすると画像のような色になり、発色しないようになめし入れをするとかなり白に近い色になります。

ヌメ革はお手入れしながら使っていくとあめ色に変化していきますが、綺麗なあめ色になるようお手入れしていくことを、「ヌメを育てる」と表現します。

シミ一つない綺麗なあめ色にするのはかなり難しいんです。
このヌメに顔料塗装されてしまうとヌメの変化が止まり育たなくなります。

当店では基本、ヌメ革への染色はお受けしていませんが、このバックは説明をさせて頂き、できる限り質感変化が出ないよう塗料でシミを隠蔽しています。

◇オーストリッチ 染め変えでシミを隠蔽

このバックは染料で色づけされたオーストリッチバックです。
バックの中でこぼれてしまった血の混じった肉汁が表の革まで染み出し固まってしまった状態。

諦めていたとのことで、数年経過しており、完全に血液が固まった状態。
こうなってしまうと服でも取るのが大変になります。

このバックの色だと、染み抜きで大量に薬剤を使うと、染み抜き跡がそのままシミになってしまうため、今の地色と質感を維持した状態でシミのみを取ることはできませんでした。

使える程度までに快復できたらということで、オーストリッチ独特の革の質感を残しつつ、染料と顔料を組み合わせ染め変えをしたバックです。



顔料を使っても革のシボ、質感を残して染め変えているのがわかって頂けると思います。

◇色も質感も変わってしまったバック

いろんなサイトを見て、このお店ならと思い依頼したとのことでしたが、仕上がりを見てびっくり・・・

「ペンキを塗ったような質感になり色もカエルのような緑色にされてしまった・・・」と。
そして、当店に届いた時からすでに塗装がぼろぼろと剥がれてきている状態でした。



色を付けることは簡単です。使用に耐えられるようしっかり固着させることが難しいんです。

この仕事をするお店へやり直しで依頼はしたくないからと当店へ相談してこられました。

ボロボロとはがれてくるような塗装をされてしまうと、その上から色を入れても下からはがれてくるため一度剥がし取らないと色を入れられないんです。

今現在は他のお店でこのような色直しをされた場合、当店で直すことはお受けしていません。

色を調色して直すことより取るほうが大変な作業になるからです。

このバックは他の部分がエナメルになっているため、塗料を取るための薬剤が付くとエナメルの表面も溶けてしまいます。

塗装を取るだけで、塗装して直すバックの何倍もの手間がかかっています。



糸の縫い目、手が届かない狭い間に入り込んだ部分などまでの塗装は取り切ることができないため、お客様のご希望もあり黒で染め変えていくことになりました。

「緑の塗料をはがし取った時の革の質感を残しつつ黒へ染め替えていきます」とお受けしています。

仕上がりがこちら。「最初からこの色だった??って思うくらいの仕上がり」と大変喜んで頂けました。



同じバックでも、同じ革でも、依頼するお店により仕上がりは変わります。

◆まとめ

お客様からの色々なご相談をお受けすると、きちんとした説明をしているお店がほとんどないという印象を受けます。

他のお店がどこまでのスキルを持っていてどのレベルまで出来るかはそのお店しかわかりません。

依頼するお店を選ぶのって難しいですね。

お店選びのヒントになればと、ゆうゆうでは実例をもとに詳しくわかりやすい説明を心がけています。

ハイブランドの高額バック等を依頼する場合、金額だけで決めず、してもらいたい事をしっかりと伝え、納得できるお店へ依頼することをお勧めします。

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