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家庭で洗い色滲みしてしまった法被~ちゃんと染めているのに最後の処理が甘かった法被~

法被の色滲み取り参考価格

手間のかかり具合により価格が変わります。

一般的な衣料と同じ程度の色にじみ処理で取れる法被
8000円(税込み8800円)~

インディゴ染料(藍・硫化を含む)の色滲み
10000円~20000円(税込み11000円~22000円)

見た目での判断は難しいためテストをしてみないとインディゴ染めのかどうかの判断ができません。

今回はかなりの手間と時間がかかると予測できたため
22000円となっています。

この価格となってしまうのも工程を見て頂ければご理解いただけるのでは、と思います。

◆県外からのご依頼品と浜松で作った法被を比べた品質の差・・・

おしゃれ工房You友(ゆうゆう) 店主 大友眞吾です。

前回色抜きの記事をご紹介しましたので今回は家庭で洗って失敗?してしまった色にじみの事例です。

法被って昔から「仕立て上がったら洗ってから使う」のが常識となっていました。
今年、初洗いで持ってこられたお客様の中に、『「数年は洗わないでください」「何もしないでください」と言われたけど色移りが激しすぎて使えない』と持ってこられたお客様もいらっしゃいました。

数年は洗わないって・・・この激しい色落ちする状態を知ってて言ってるのかなぁ・・・って。
で、藍染めなら数年寝かせてってのもわかるけど(寝かせるほど高級になる)藍染めじゃないから関係ないし色は時間を置いても定着しないんです。

そして県外からも法被の色滲み、色落とし、手に付かない程度に色を落としてほしいと言ったご依頼があり気が付いたことがあります。

前回色落としの事例をご紹介したのは全て浜松で注文して作られたモノ。

今回ご紹介する法被も含め、県外で作られたお客様の法被ってそれなりにちゃんと作られているモノばかりって事。

例えばこの法被にしても背中の文字を見て頂くとわかるように、白い部分は白抜きされています。

この下に前回の記事のリンクを貼っておきますので背中の文字部分を見てください。
白抜きされていないんです。


藍染め法被(はっぴ)~色落ちが激しい法被の色落とし・使用感を出す年期入れ~

法被色滲み~色滲みとハイターによる変色と脱色~

左側が表面、右が裏側です

県外から届いた法被を見て、そういえば地元浜松で作られたという法被でちゃんと白抜きされているモノって滅多に見かけないな・・・って思いだすようにして気が付いたんです。

というか、服でもどんどん作られ方が変わってきているからどこも同じような作られ方になっていると思い込んでいました。

そして、一番の違いは色の抜け方。
今回の法被は色滲みがかなり落ちなかったため、かなり強い滲み取りまでしていますが、本体の色は思ったほど褪せていない。

仕上がり画像を見て頂くとわかります。

どうして顔料など余分なモノで色づけされているのか不思議なくらい、ちゃんと染められている法被でした。


◆どの程度色落ちするのかなどはテストすれば一発でわかります。

実際には触って、見て判断ができるのでこのテストはしませんが、一目でわかるようテストしています。

下に白いティッシュを置き、したから吸い取りながら水を吹き付けています。
単純に水のみです。

右画像が水だけで色落ちした色です。
2~3秒程度で、ティッシュも破れない程度の弱い水圧でテストしています。

お客さんが洗って色が滲んだってご相談でしたが、水だけでこれだけ落ちるのだから洗えば滲んでも不思議ないですね。

今回は色が実際に滲んだ部分もテストをしてみたところ、かなり落ちない色滲み。

インディゴ系(藍、インディゴ、硫化・以下インディゴとします)の色も付いていることが判明。

顔料、インディゴの両方が滲んでいるって事です。

経験上、取れ具合からしてかなり落とせない色滲みとなる感じでしたので、16000円~20000円程度と見積もりさせて頂きました。

もちろん、ご予算もありますのでこの時点でキャンセルはOKです。

かかる手間と時間を考えお見積りを出させて頂くだけですのでやるやらないの判断はお客様ご自身で決めて頂ければOKです。

今回は20000円かかってもやって欲しいという事でご依頼をお受けしています。


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◆過剰に残されている染料を落とす「アク抜き」

15年くらい前になるかな、徳島の藍染職人から教わった、その職人が実際にやっている「アク抜き」方法です。
藍染め(インディゴ含む)として作られている場合、アク抜きをしっかりやってあれば色移りなどしないと教えて頂きました。

高温のお湯で漬け込み洗い流していきますが、実際にはインディゴ以外のモノもいられれているので状態を確認しながら臨機応変にやっていきます。

手を突っ込めない温度の中でアク抜きをしていきます。

透明のお湯から色が出てきたのがわかると思いますが・・・
藍染め、草木染によるインディゴ染めの場合は黄色っぽい色が出てきます。

化学インディゴなど今ではいろんな染料もあるため、実際には何の染料の色かわかりませんが・・・
やっていくうちにそれも分かってきます。


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アク抜き2度目処理①

藍染めのアク抜きは色が出てきたらお湯を変え、色が出なくなるまで3~5回程度は繰り返します。

濃い色を落ちないように定着させるのって難しく手間とコストがかかるんです。

色を濃く見せるために本来なら色移りなど出ないよう過剰に乗っている部分は洗い流さなければいけないのですが、濃く見せるために過剰に染料が残されている服って結構あったりします。

この過剰に残されている色は定着させることができないので洗い流すしかないんです。
色がどの程度褪せるか(落ちるか)は染められ方次第になります。

浜松で作った法被でもそれぞれ作られ方(染め方)が違うため、たとえ同じ工程で処理をしても、ものすごく色落ちするモノ、適度に使用感が出る程度の法被と様々な結果になります。


アク抜き2度目処理②

色はまだ少しづつ出てきますが背文字の滲みは結構落ち、かなり白くなってきています。

ただ、色の出方と落ち方を見ているとインディゴの色落ちではない事がわかります。

インディゴで滲んだ場合、この工程ではほとんど落ちないからです。

それともう一つの違和感を感じながら2度目の処理を一度終了しています。


◆3度目のアク抜き

アク抜き3度目です。
とりあえずアク抜きの段階で落ちる色が出なくなるまで落としきります。

経験上、一つの工程を中途半端にして良かったことはない・・・
しみ抜きにしてもまずは無理をしない工程で状態が動いている(変化している)場合は動かなくなるまで続ける。

取り切れてくれれば一番リスクも少なく負担もあまりかけず綺麗にできます。

3度目にしてほぼ色は止まり(出きり)ました。

過剰に残っている染料を洗い流すこの工程は製品化する前段階(製造段階)でしていくのが服作りの基本です。

和物の場合、品質表示義務がなく、作る職人に品質を任せているのが法被を含め和物になります。

任せられている品質というのをどう考えて作っていくのか・・・職人、作る会社の考え方次第になります。

新品の法被を洗ったら色が滲んだって今年もありましたが毎年あります。

お客様は「自分が失敗しちゃった」「よくわからず洗っちゃったから」など・・・
自分が悪かったって考えてしまうものですが、触るだけで手に色が付く状態を家庭で洗えば高確率で色滲みします。

これは100%法被の作り方の問題です。
色滲みが出ない洗い方など、一般の人が知るわけありません。


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3度目のアク抜き 滲み処理

色の出もほぼ収まったので白地部分をつけ置きしながら超音波しみ抜き機でさらに洗浄し落としていきます。

この段階で色滲み自体はインディゴではなく顔料で色づけていたものだとほぼ確信しています。

顔料とは色の粒子を接着剤で貼り付けて色づけています。
簡単に言えばペンキとか絵の具、マニキュアと同じです。

皮膚の毛穴にも入り込むような小さな粒子が繊維の目の中に入り込むと取れなくなりますがそこまで細かい粒子ではないので水を振動させる超音波しみ抜き機で振動させながら粒子も振動させて動かし除去していきます。

実際にどこまで取れるかはやってみた具合です。
取れる分しか取れません。


アク抜き、超音波しみ抜き後

背文字を超音波しみ抜きをかけ、法被も動かし続けていましたが色は止まっています。

不思議なのは・・・この法被は顔料染めなど余分なことしなくてもよかったのに・・・って事。

本体の藍色はあまり色褪せもせず、滲みの取れ具合からしてインディゴからの色の流出はほぼ出ていない状態。

何を思って顔料を乗せたのか不思議です。

藍染めは色落ちするモノ、と間違った情報が蔓延しているから色落ちするようにわざと顔料を乗せたのかな・・・

いずれにしても、この法被自体はインディゴでしっかり染められているモノでとてもしっかりとした作られ方をしています。

顔料乗せ以外は、です。

ここから乾かしたあとが大変でした。


◆藍染めの法被に付けられている色の正体を可視化

2度目のアク抜きの時から感じていた違和感の原因は顔料が乗せられている事です。

と言ってもよくわからないと思うので可視化してご説明していきます。

まず、作業しながら感じている違和感は、なんとなくペタ付きが出てきた?です。

アク抜きの最中ずっと感じていました。

で、乾かしてみると完全に乾かしてもべたつきがさらにひどく出ている状態。

間違いなく樹脂(接着剤)です。
色をは貼り付けている接着剤が溶け出しべたつきが出てきた状態です。

今度はこの接着剤を除去しなければいけない・・・

という事で樹脂の洗い流しをしています。

樹脂はアルカリのほうが溶け出しやすくなるのでかなり高温にし、アルカリ剤を入れ、除去していますが止まっていた色が一気に出てきます。

この色を白い部分に滲ませないよう樹脂を除去していきます。


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除去した樹脂を可視化

同じ条件で3度目の工程です。
85℃前後まで水温を上げるのには時間がかかります。

お湯の中に溶け出させるため、水量は多めで作業をしていきます。
3度目にして色の出が止まり白濁した状態が残っています。

この白濁こそが樹脂です。

例えば木工用ボンドなど、水溶性の接着剤って白い色をしています。
元々この樹脂(接着剤)って油性にしか可溶しないモノだったのを水に可溶させることができるようになり酢酸ビニル(木工用ボンド)が作られました。

この水溶性樹脂が作られるようになり、色んな水溶性の絵の具、塗料、接着剤などいろんなものが作られるようになりました。

と、教えてもらいました(笑)

水と油と同じで、可溶しないモノどうしを混ざりあうようにさせると乳化(エマルジョン化)します。

界面活性剤を使い入り混じらせる、熱をかけて入り混じらせるなど、水と入り混じると乳化するんです。

化粧品ってクリームなどを見ると必ず乳化しています。
肌に付けるモノだから水溶性の成分とかさつかないよう油分が入るため乳化しています。

木工用ボンドなど貼り付ける時は白いけど、乾いて水分が無くなると透明になります。

今回は水分が無くなり固まった接着剤を熱で溶かし出しているため、接着剤が熱湯に溶け出し乳化して白く見えています。


樹脂除去後

高温樹脂処理、3度目です。
白濁した樹脂もほぼなくなっています。

水に浸かっていると色は濃く見えるので、乾燥した時にどの程度色落ちしているかがわかります。

今回は色を現状の状態で残す事は出来ない事、どの程度色落ちするかはやってみた具合です、とご説明しお受けしています。

実際色んな染められ方をされているため、色落としにしても色滲み取りにしても、実際にやってみた結果を見るまでわからないんです。

今回は樹脂の溶け出しとべたつきが出てしまったため、予想以上の手間と時間がかかってしまいました。

樹脂が溶け出しべたつきまで出て、樹脂を除去しないといけないというのは想定外。

実際ここまでの作業をやった事例はこの法被が初めてでした。


◆色滲み取り 仕上がり

そして仕上がりです。
画像以外にも部分的な染み抜きなど細かな作業をかなりやっています。

前立ての白文字ですが、この法被はこの白い部分もおそらく白抜きされています。

紺色の上に白い塗料で書かれている法被が多いのですが、この場合は塗料が取れたり薄くなったりすると下地の紺色が透けて見えてくるため白い色がくすんできます。

今回は塗料も剥がし取るような工程で作業していきましたが白い文字は真っ白になっています。

もともと白かったから、真っ白になっているって事です。

紺色の部分も顔料が取れたのでとても自然な染物の色、風合いになっています。

顔料の接着剤により生地が硬くなっていました。
新品時に糊張ってあるから、と説明されるかと思いますが、糊ではなく顔料を貼り付ける樹脂です。

天然の糊を貼ってある場合、ニオイなどほとんどしません。

顔料染めされているモノは独特のニオイがしています。

樹脂をあまり入れないで簡単に色落ちする状態で作られていれば樹脂の溶け出しによるべたつきはほぼ出てきません。
浜松で作られた法被のほとんどはべたつきは出ていません。

その代わり色落ちは半端ない・・・かな・・・


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◆家庭で洗い色滲みしてしまった法被~ちゃんと染めているのに最後の処理が甘かった法被~ まとめ

今回はものすごく時間がかかった色滲み取りとなりました。

やることが決まっていて順番にやっていくのではなく、やりながら状態を見て次にどうしたらいいかを考えながらやっていくためものすごく大変でした。

ブログで紹介すると簡単に見えるのかもしれませんが。

今回は綺麗に除去でき、とても自然な色と風合いの法被になりました。

これははっきり言ってしまえば私がすごい!のではなく法被自体がとてもしっかりと染められ作られていたからです。

簡単に色落ちするような染め方をされていたら藍色を残すことができませんから。

ほとんどの法被は祭り用品などを販売しているお店がオーダーを受け外注依頼で仕立ててもらっていると思います。

この法被がこんな作りになっているって事を販売するお店は知らないって事がほとんどです。

今回の法被に関しては、余分なことをしなければとても良い品質の法被に仕立てられていますって事を販売店に伝えたいって思えるくらい、ちゃんと作られた法被でした。

和物は品質表示義務がないため法律で守られていない分野です。

毎年浴衣でも家庭で洗ったら色滲みが出てしまったってご相談が何件もあります。
当店へ出てくる色滲み除去などのご依頼品の場合、ほとんどがオーダーで作られている浴衣。

品質表示があるかをお客様に確認してもらい、付いていて家庭で洗える指定の場合は、まずはお店へ持っていって相談してくださいと案内しています。

当店のような店で手付けると表示があっても保証できないと言われてしまう可能性があるからです。
相談して対応してもらえなかったら再度連絡ください、とさせてもらっています。

対応してもらえるのであればわざわざ当店へお金出して依頼する必要はなくなりますから。

品質表示が無くても対応してくれるお店もあります。
呉服屋さんなどで誂えた浴衣などの場合、相談にもっていったら自分のとこで販売したものが色滲みするなんてと驚かれ謝罪されながら新しい浴衣を作ってもらえ、色滲みが出た法被はそのままくれたので色滲みを取ってほしいと言った事例もありました。

対応のされ方はほんと色々です。
品質表示が付いていない場合、対応してくれないって事もしばしば出ています。

パット見た目ではわからない品質ってたくさんあります。

クリーニングも同じように綺麗なHPばかりだからどこを見ても本当に品質って見えてきません。

こんなブログを書くのってものすごく大変です。

でも服に付いてでもクリーニングに付いてでもお客様から聞かれる疑問に答えてくれる、教えてくれるとこってないですね。

法被は家庭でガラガラと洗ってから切るモノって思っていたのにどうして色が滲んじゃったんだろ・・・

浜松の場合、本番の10日前くらい、遅いとこだと3日前くらいに納品されたりします。

この段階で色滲みが出てしまったら替えが無いと着て参加できません。

気の毒に思えるくらい焦り落ち込みながら相談に来られる方を何人も見てきています。

もうすぐ浜松祭りです。
羽目を外し過ぎない程度で楽しく元気に開催してもらいたいですね!

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