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お母さんの形見 手縫い刺繍のタペストリー~カビ取り変色黄ばみ取り~

同じような形状のモノでも素材や状態が違うため、特殊なモノは全て現物を拝見してからのお見積りとなります。

全てのモノが出来る訳ではありませんので、出来るかどうかも現物を拝見しての判断となります。

LINEで画像をお送り頂いてもこうした特殊品は画像では判断できかねます。

現物を持ってご来店頂ければ拝見させて頂きます。

宅配でご利用のお客様はお送り頂くことになりますが、必ず事前にご連絡をお願いします。

◆七人の小人 手縫いのシルク刺繍

おしゃれ工房You友(ゆうゆう) 大友 眞吾です。

亡きお母さんが手縫い刺繍で作ったタペストリーです。

以前、テレビのドキュメンタリー番組で手付ける前から工程、仕上がりまでが放映された時と同じお客様のタペストリーです。

TVで放映された時の動画は下記のリンクからご覧いただけます。

TV収録時、放映では移っていませんが、刺繍糸をお客様から頂き、色々とテストをしています。

カビと黄ばみ変色を取るための作業で糸の色が滲んだりしないか、糸の色が抜けたり褪せたりしないか・・・

裏側には白い紙が貼り付けられており、この紙が破れたりしないか等々・・・

このタペストリーを綺麗にするためのヒントはTVのドキュメンタりー番組でやっていた、古い掛け軸とか「書」のカビを取る表具職人の仕事にありました。

紙に書かれた「書」と綿生地、シルク刺繍などはまた違うのですが、裏打ちされている紙をどう扱ったらよいかの考え方のヒントを貰うことができました。

紙に付いた汚れ、シミ、カビを取るってクリーニングの仕事の中にはありませんから・・・

今回も見た瞬間に「ものすごく綺麗になった!」ってとても喜んで頂けた仕事となりました。

綺麗にするための工程をご説明、ご紹介させて頂きます^^


TVで放映 日本中で驚かれたシミ抜きとクリーニング動画・タペストリーは後編

◆色滲みが出ないよう色止めから

これは水洗いで色滲みが出そうな服など洗う時も同じですが、滲みが出そうなものはまず色止めです。

色止めと言っても、水が付くだけで即色が溶け出し広がるような状態の場合、色止めは効きません。

色部分の色でテストをし、あまりにも定着していない染料が多い場合、過剰に乗っている染料を洗い流す事から始めます。

過剰に乗っている染料は定着させることは出来ないため洗い流すしかないんです。

洗い流すとかなり色が褪せたり白けたりしてしまう服もありますが、これはメーカーの作り方(染め方)次第となります。

今回のタペストリーはおおよそわかってはいますが糸部分の色でテストをし、洗い流す必要はないと判断しましたので色止め目でまずは色滲みが出るのを抑える加工です。

色止め剤を吹き付け、軽くたたきながら浸透させ色止めをしています。

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お洗濯の予洗いと同じ水で汚れを洗い流し

色止め剤により染料結合をさせたら、余分な色止め剤を洗い流しながら、ブラシで軽く汚れを洗い流していきます。

汚れ量に比例して洗剤量も増やしていきます。
洗剤を使うと水だけでは色が出ないモノでも色が滲んできたりします。

洗剤を入れると浸透力が上がるため、水だけでは流れ出ない染料が流れ出て色が滲んだり色移りしたりします。

色滲みは水分に触れている時間に比例して流れ出てくるため、出来る限り出てこないよう、洗剤量、水分量を少なく洗っていきます。

水だけで洗い流せる汚れを落とす事で洗剤量を少なくしても汚れを落とすことができるようになります。

刺繍部分に注意して、全体の汚れを洗い流していきます。

色止め、防縮剤入りの洗剤でブラッシング洗い

次に黄ばみが酷かった部分など、洗剤でさらに汚れを洗い流していきます。

この次の工程も汚れ量が少ないほど効率よく効果が出るため落とせる汚れはしっかり落としていきます。

シルク刺繍部分は強くこすると糸切れが起きたり色落ちしたりするため(シルクは色落ちしやすくデリケート)注意して汚れを落としています。

最初の色止め加工と洗剤に配合されている色止めと2段階で止めています。

色止め剤が洗剤に配合されていると浸透力も上がり種類の違う色止め剤で2重に色止め加工が効いています。

ただし、それでも止まらない色もあるのですべてが大丈夫というわけにはいかないのが難しいところです。

色の堅牢度テスト(色出テスト)で止らないと判断した場合は色褪せを覚悟で試すかご返品となります。

保証は出来ないのでお客様の判断に任せることになります。


水分を減らして乾燥

洗剤を洗い流したら次の工程に行く前に一度乾燥させます。

左側画像はエアーで水分を飛ばしています。

まずはエアーで水分を飛ばしてから、バスタオルで出来る限り余分な水分を除去していきます。

脱水機などは一切使いません。

染料は落ちにくくされた水溶性汚れと同じです。

水分量が多いと溶け出した染料が乾きながら吸い上げられるようにして色の周りに滲みが出てきます。

水分は揮発すれば消えてなくなりますが水に溶けだした染料は水分と違い揮発していかないため吸い上げられながら溜まるようにして染料のみが残り色滲みができます。

水分量をできる限り減らし、早く乾燥させることで色滲みが出ることを抑えることができます。

強い脱水をすれば水分量はもっと減りますがシワになる、裏打ちされた紙が破れたり脱水時に色が移ることもあります。

今回は脱水機を使わず洗い、乾燥までしていく作業となります。


乾燥後に酸化処理による黄ばみ、カビ落とし

乾燥はサーキュレーターの風を当て早く乾かしてます。

2~3時間もするとほぼ乾燥しますが、このまま翌日まで放置して完全乾燥させています。

乾燥後に洗剤では落ちなかった黄ばみ、カビシミを酸化剤で除去していきます。

この酸化剤も酸化物(汚れ)に反応します。
酸化=腐食になるのでできる限り酸化剤も少なくすることでシルク糸への影響も抑えることができます。

酸化物を少なくすることで効率よく少ない酸化剤で漂白することができ、酸化剤の量が少なるなれば酸化腐食も抑えることができます。

刺繍されている基布の綿は大丈夫。
シルク糸に影響が出ないように洗い、カビ、黄ばみ変色を除去していきます。

様子を見ながら酸化漂白を繰り返しています。

酸化漂白後、酸化剤を中和させながら結合酸素除去をしています。

酸素が繊維と結合すると黄ばみが出てきます。

真っ白の服って置いておくだけで黄ばんでいくのも空気中に酸素があり酸化していくためです。


◆Before&After

仕上がり画像です。
数年前にも一度やっているとはいえ、かなりきれいになっているのでお客様も見た瞬間にびっくりされていました。

額に入っていたため折り曲げ内側に入っていた部分は変色が少なく、四角い状態でかなり色の差が出ていました。

この段差は消え切らないかなぁ・・・と思いながらの作業でしたがほぼわからないレベルまで綺麗に黄ばみ変色が取ることができています。

結合酸素除去をした際、酸化では落ち切らなかった黄ばみが取れ色が一段明るくなり綺麗になってくれました^^

シルク刺繍の周り、白い部分なども色を退色させることなく取ることができています。

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裏打ちされた紙部分

裏打ちされた紙部分も表と同様洗い、漂白までしています。
なので裏側の紙部分はシミ一つなく真っ白になっています。

紙相手にどこまでできるかのヒントは、表具を綺麗にする職人さんがテレビで見せてくれた古い書のカビ取りでした。

気を付ける点などの説明が、私にとっても財産となる技術になりました。

実際に手掛けている職人さんの基本的な考え方、注意点を教えてもらえる事一つ一つはクリーニング業界には無い技術と知識。

自分の仕事にこの技術と知識を落とし込めることが出来れば、業界にはない新しい技術を作っていく事ができるんです。


一番濃くカビ・変色が出ていた部分

全体を均一に綺麗にしていくには手順があります。
シミが取れるかどうかのテストをする時も、部分的に強いシミ抜きをしてしまうと全体を復元させる洗いをした際、シミ抜きの強さが違うため均一にはならないんです。

同じ強さ、同じ条件でやっていかないと綺麗になる度合いが色の差となって出てしまうからです。
例えば白いスーツを上下別々に出して色が変わってしまった場合、色を揃えることができなくなりますが、上下は洗う時の条件をいつも同じ条件で洗って行かないと色が変わり揃えられなくなるからです。

テストは最終的にどの状態になるのがベストな状態になるかを考えながら進めていきます。

まずは出来る限り全体均一な処理の中で落としきり、周りの色合いと比べ色の差が出来る限り出ないよう、残ったシミを個別に落としていきます。


◆形見のタペストリー まとめ

額に入れられていたため、額に隠れていた部分との色の差がくっきり出ていた部分です。
角がくっきり出ています。

この部分の段差を消すことができるかな・・・このタペストリーの状態を見たときに最初に思ったことです。

ぐるっと四角い状態で残っているため、この線は消えないかもしれない、という事も最初にお伝えしています。

「できる限りやってくれればそれで大丈夫です」という事でお預かりをしています。

もう何十年もお世話になったお客様の娘さんからの依頼ですので、このタペストリーの価格は今回載せていません。
同じ価格ではできないから・・・

Before&Afterだけでは簡単にきれいに出来るって思われたりもするため、工程と説明をしています。
このブログを書くのもかなり大変・・・

ブログを書くために写真を撮り、工程も撮り、仕上がりも撮り、一つ一つを説明する手間と時間って仕事をしているより大変かも・・・

ブログを書き始めて19年になりますが、今になってブログが生きてきています。

Before&Afterだけでは見えない、わからない事もたくさんあるし、実際はどうなんだろ?って疑問に思われる方もたくさんいらっしゃると思います。

実際の工程を説明しています。
説明をご覧になって頂ければクリーニング代金と同じ価格帯では出来ないって事を理解して頂けるかと思います。

ここまで1点に手をかけることが出来るのは手間がかかる分の代金を頂けるからです。

自分にとって一番大切な服、かけがえのないモノを選んで任せてもらえるお店にしたい。

そしてこんな仕事をしてもらいたいって思うお客様から依頼して頂けるお店にしていきたいと思っています。

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